ソフトウェア無線 RTL-SDR.COMで短波帯(HF帯)を受信する

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以前、海外のTVワンセグチューナーでソフトウェア無線を行う動画をアップした時、視聴者様よりRTL-SDR.COMというチューナーならば、短波帯(HF帯:High Frequency)が受信できるようになると教えていただきました。

ネットショップで商品を探すとHF帯のロッドアンテナがついて約5,000円で販売されていたので、我慢しきれずに買ってしまいました。

RTL-SDR.COMのHPでは類似品があると注意が記載されていましたので、RTL-SDR.COM V3と表記されたものをしっかりと確認して購入しました。RTL-SDR.COMではS/N比の違いが明確に記載されており、この性能差を出すには激安品に数千円の改造コストが必要なので、正規品の方がコスパがいいと思います。

RTL-SDR.COM(アンテナ付)を購入

RTL-SDR.COMは単品でも4,500円位するので、500円プラスでアンテナ類が付いてくるのでお得です。

ロッドアンテナのため、アンテナの受信性能はそれほど期待できませんが、SMAコネクタケーブルだけでも1,000円くらいしますから商品としてはお値打ち品だと思います。

商品の中身は以下の通りでした。

  • RTL-SDRドングル(HF帯も受信可能)
  • ロッドアンテナベース(給電部)
  • アンテナ基台2種(吸盤と簡易スタンド)
  • ロッドアンテナ2種(HF~VHF帯とUHF~SHF帯)
  • SMAコネクタ同軸延長ケーブル(約3m)

アンテナの基台が2種類も入っており、固定方法には苦労しなくて済みそうです。移動での利用を前提にするとロッドアンテナは可搬性が良く便利だと思います。

チューナーとPCの接続は市販延長ケーブルで

PCとチューナーは、PCに直結でもよいのですが、チューナーはそこそこ発熱がありますし、不意の衝撃でUSBポートを破損する可能性があるので、市販延長ケーブルを使うのが良いと思います。

種類はいろいろありますが、取り回しを考慮すると極細ケーブルがよいです。またUSBケーブルは意外と周囲のノイズを拾うので、ノイズ混入を考慮すると短いものがいいと思います。

SDRソフトはHDSDRを選択

SDRソフトは、HF帯の受信に特化されているHDSDRを使いました。

HF帯は、CW,SSBなどの周波数帯域が狭い変調方式が用いられるので、受信周波数を細かく設定でき、かつ、局部発信周波数(LO:Local Oscillator)が変更しやすいHDSDRのほうが使いやすいです。

LO周波数は、受信周波数の基準となる周波数で、SDR#やHDSDRのスペアナでみると、電波がないのにヒゲのように出ているやつです。

LO周波数と受信周波数と同じ周波数に合わせると、LO周波数がノイズとなってS/N比が悪化し、うまく受信できません。復調してみるとピーという音になるので、実際の電波ではないことがわかります。SDR#ではLO周波数が自動的に受信周波数の少し下に設定されるようです。

またHDSDRには「チャンネルスキャン」というプラグインはありません。チャンネルスキャンを使う必要がある場合はSDR#、その他はHDSDRという使い分けが良いと思います。

USBチューナーのデバイスドライバーインストール

USBデバイスドライバーにはzadigを使います。

SDR#はソフトウェアのパッケージに同梱されていましたが、HDSDRは別でインストールする必要があります。

既にSDR#を入れている方はzadigドライバーがインストール済なので、この手順は飛ばしていただいても結構です。

ZadigのサイトよりZidag.exeをダウンロードします。執筆時点の最新バージョンは2.5でした。

インストール方法は以前の記事に記載していますので参照してください。

Zadigドライバーは、これから紹介するソフトウェア無線開発ツールgnu radioでも同じものが使えます。これらがすべてフリーソフトとは本当に素晴らしいです。

HDSDRのインストール

HDSDRのサイトよりソフトウェアをダウンロードします。

執筆時点では、HDSDR v2.80 installer. (March 19, 2020)が最新で、インストーラー形式のexeファイルで配布されています。

RealtekのRTL2832が使われているチューナーを使いますのでHDSDR用のDLLであるExtIO_RTL2832.dllもダウンロードしておきます。

HDSDRのインストーラーをダブルクリックで起動し、OSのセキュリティ警告を了承すればインストールが完了します。SDR#も展開するだけと簡単でしたが、HDSDRもかなり簡単です。

次にデスクトップに作成されたHDSDRのアイコンから、インストールしたフォルダを開けて、ExtIO_RTL2832.dllをコピーします。

起動して画面がでてくればインストール作業は完了です。

HDSDRの設定と使い方

HDSDRはアマチュア無線に詳しい人でも使いこなせないくらい高機能です。

私もアマチュア無線に夢中になっていた時期もあり、陸上無線技術士というプロの免許を持っているのですが、知らない機能が山のようにあります。

HDSDRは、基礎知識がないと受信した電波を音声に復調できないので、最低限理解しておく項目について解説します。

HF帯とV/UHF帯の切り替え

RTL-SDRに入っているRTL2832は、28MHz~1700MHzの受信ができますが、28MHzより下のいわゆるHF帯はそのままでは受信できません。

HF帯の受信は、RTL2832のQ端子をブランチ(信号を中抜き)し、中抜きした信号をPCで直接サンプリング処理することで実現しています。

このようなQブランチ回路は、市販のワンセグチューナーには入っていないため、従来はワンセグチューナーをはんだ付けで改造したり、ワンセグチューナーが扱える周波数に変換する周波数コンバータを挿入したりするものでしたが、RTL-SDR.COMよりQブランチ回路が付加されたチューナーが販売されていましたので、購入する方が早くて確実と思います。(youtubeのコメントで教えていただくまでこのような製品が発売されていることを知りませんでした。)

HF帯を受信するときは、RTL2832の設定をQブランチに設定します。自動で切り替えは出来ないので、受信する際に個別で設定する必要があります。この設定要領はSDR#も同じです。

V/UHF帯を受信するときの設定

HF帯を受信するときの設定(Q inputを選択)

ExtIO_RTL2832の設定画面で出てくるAGC(Auto Gain Controll)は、HF帯で使われる変調方式ではあまり有効ではないため、普段OFFで使ったほうがよさそうです。

AGCはフェージングなどの多経路の電波伝搬干渉で信号の電界強度が弱ったときに、感度を上げるよう動いてくれるのですが、ノイズも増幅されるのであまり使わなくてもいいかもしれません。

変調方式の簡単な説明

HDSDRの操作ウィンドウにあるCW, USB, AM, FM....は変調方式の略称です。

音はそのまま電波に乗せることが出来ないので、一旦、音の情報を電波の振幅に変えて、伝送します。電波の振幅を変える方法には、いろいろな種類があるのですが、放送で使われているのがAMとFMです。

AM(Amplitude Modulation)は、音の大きさを、電波の振幅の大小に変えて伝送する仕組みです。占有帯域幅が少ないので、HF帯のAM放送に使われている方式です。

欠点としては占有帯域幅が狭いため、音質があまり良くありません。しかし声を聞き取るレベルであれば必要十分ですので、いまでも放送で使われています。

FM(Frequency Modulation)は、音を2つ以上の周波数に変換して、伝送する方式です。音の大小を周波数に変換しているので、非常に緻密なデータが伝送できます。FMステレオ放送は、WFM方式と呼ばれて2つの音声を同時に放送しており、とても良い音質が得られます。

欠点としては占有帯域幅が広いため、HF帯など帯域が狭い電波を使うと電波占有しすぎるため、VHF, UHFといった高周波領域でよく使われます。

USB(Upper Side Band), LSB(Lower Side Band)は、AMの半分の帯域で伝送できる方式で、HF帯の音声通信では広く使われています。CWはモールス信号で、トン、ツーしか送らないので、もっとも電波の占有が少ない方式です。音質は全く期待できないので、遠方と音声通信をするための変調方式です。

一般に出回っている周波数リストには、送信の変調方式が必ず書いているので、送信されている変調方式に合わせて切り替えしてください。

このような変調方式の略称は、実は法令で明確に決められていますので、もっと詳細を知りたい方は総務省のページなども参考にしてください。

帯域幅(bandwidth)

特にFM方式では、帯域幅という項目があり、この値を安易に触るととたんに聞こえなくなったりするので、頭を悩ます人が多いと思います。このあたりの事項は、大学の通信工学レベルになってしまうので、要点だけ簡単に説明しておきます。

FM通信では、帯域幅を増やすことで、一度に多くの周波数成分が送出することができ、音質が良くなったり、同時に多量のデータが送れるという仕組みを持っています。

アマチュア無線のFM通信の帯域幅は約3KHz、FM放送はステレオで左右の2音声なので約20KHzです。

地デジOFDMという方式でもっと広い帯域(5.6MHz)で放送していますが、RTL-SDR.COMはワンセグ(429KHz)しか受信する帯域幅しか持っていませんので、スペアナの画面でフルセグの波形全体を見ることはできないようです。

またSDR#,HDSDRで受信・復調する場合は、PCがデジタル処理するため、Sampling Rateという表現に変わり、その幅が自由に変更できるようになっています。

昔のアナログ無線機は、回路で帯域を固定して復調していたことから、帯域幅をシームレスに変更できるものではありませんでした。昔から無線機を使っていた者からすると、ソフトウェア無線ならではの画期的な機能だと思います。(測定器もアナログの時代でしたので)

FMを受信する場合は、帯域幅を合わせないと雑音まみれだったりして聞くに堪えないので、帯域幅の設定は常に確認するようにしましょう。

FMはAFC機能が便利

FM放送など帯域の広い電波を復調するときは、自動周波数調整 AFC(Auto Frequency Control)が便利です。

AFCをONにするとスペクトラムの一番高いところに周波数を自動追尾調整して、相手や自分の周波数がずれていても、きれいに復調ができます。

このAFC機能はドップラー効果が無視できない軌道衛星の電波受信で必須の機能です。

軌道衛星は地上から見て秒速数キロで移動していますから、近づく時は周波数が高くなり、遠のく時は周波数が低くなります。

短波放送を受信してみる

一般のAM/FMラジオでは受信できない短波放送を受信してみましょう。

HDSDRを以下のように設定して、NIKKEI  6,055KHz(6.055MHz)を受信してみます。

  • SDR-DeviceをQ inputに設定
  • SoundcardをPCのモニター等に設定(普段音声が出るデバイス)
  • Bandwidthを12000に設定(広くしても聞こえますが周囲の雑音が入ります)
  • 周波数を6.055.000(LOは少し下の5.955.000)に設定

アンテナはRTL-SDR.COMの付属ロッド(長)をめいいっぱい伸ばして、屋外か屋内の高いところに出れば、大抵よく聞こえると思います。

この周波数帯は、韓国や北朝鮮の放送も行われているので、スペクトラムアナライザを見て、マウスのホイールで周波数を上げ下げすれば、簡単に海外放送を聞くことができます。

ただし、短波ラジオ放送は23:00以降は停波されるのがほとんどのようで昼間しか聞こえません。夜中に遊ぼうとしても聞こえませんのでご注意ください。

AM放送はあまり感度が良くない

RTL-SDRのスペック上の下限周波数は500KHz~ですが、NHK AM(666KHz)はあまりうまく受信できませんでした。

アンテナを振り回していると、放送が聞こえるところがあるかな、程度になります。

波長が長いので付属のダイポールアンテナではうまくできませんでした。AMラジオの周波数はループアンテナのほうが良いかもしれません。

でもAM放送は市販のラジオでも十分聞けるので、わざわざPCで受信する必要性はあまりなく、ここの性能アップにコストをかける必要もなく、深追いはしないことにしました。

HDSDRのマイナートラブル

HDSDRは、スペクトラムアナライザの描画が緻密で、使ってて楽しいSDRソフトですが、USBチューナを別のものに差し替えると受信できなくなるときがあります。

どうやらソフトを終了するときに、ウィンドウの位置や設定などを保存しているようですが、次に起動したときにチューナーの型式が変わっていると、初期化が出来なくなって、受信できなくなります。

対策をいろいろ(HDSDRやドライバーの再インストール)と試みた結果、以前紹介したソフトウェア無線 SDR#(SDR sharp)で受信できることを確かめてからHDSDRを起動すると受信できるようになりました。

SDR#とHDSDRは、同じUSBドライバーを使いますので、HDSDRは受信のハードウェアに変更があった場合の初期化処理がうまくできていないかもしれません。

USBチューナーを複数個持っており、差し替えて動かなくなった場合はお試しください。

SDR#とHDSDRの併用で便利に使う

チャンネルスキャン機能が必要なときはSDR#、HF帯や衛星通信を受信するときはHDSDRと、使い分けでほぼすべての帯域をカバーすることができます。

このRTL-SDRは、前に購入したUSBドングルよりも、ノイズが少なく、他の方のレビューでは周波数ズレの製品ばらつきも少ないとのことで、この価格帯としては素晴らしい製品だと思います。

このRTL-SDR.COMの欠点としては発熱です。通常使用でも50℃を超える場合があります。まぁ運用中に触ることはないですし、熱暴走さえしなければ、特段気にはなりません。

(参考)短波放送の周波数について

短波放送の周波数をまとめておられるHPを紹介しておきます。

IWATA さんの「Web上最強(改)の海外日本語放送スケジュール

KAY2さんの良く聞こえる英語放送のスケジュール