親族が調剤薬局を営んでおり、レセプトコンピュータ(以下レセコン)の更新時期が来たので、これまでのITの知見を活かして更新作業を行いました。
調剤薬局は、2003年頃から診療報酬の請求がオンライン請求に切り替わっており、レセコンは薬局を経営する上で大変重要なシステムとなります。
レセコンのシステム導入費は、概ね250万円~とサラリーマンからみたらとても高額なのですが、ネットで価格比較できるものではないため、メーカーの営業さんへ個別に聞く必要があります。
調剤薬局は、全国に6万店舗以上とコンビニよりも店舗数が多く、流通システムを保有による有利不利がないので、個人店舗も7割くらいを占めるそうです。
そのため、日本薬剤師会で記載されているシステムベンダーも30社以上と非常に多く、ネット上でも断片的な情報しかないので、調剤薬局を経営されている方にとって、レセコン選びはとても難しい作業と思います。
本記事では薬局で使うレセコンのメーカー選定方法とその比較について説明します。
レセプトコンピュータとは
レセプト=診療情報明細書を計算して、それを作成してくれるコンピューターがレセコンです。
これには、お薬手帳や薬剤情報発行や領収書の発行、窓口会計の計算、投薬使用量の管理、レセプト作成、処方箋発行、入出庫管理など、多くの機能があります。
一般の調剤薬局では、月1回に診療情報明細を、地域の担当厚生局に電子データにしたレセプト情報を送信し、診療報酬を受け取るという仕組みが構築されています。レセコンがないと診療報酬を受け取ることができないだけでなく、日々の調剤の作業も手作業になるので、調剤薬局では非常に重要なシステムです。
レセコンといっても、パソコン1台から使うことができます。1台目のパソコンはサーバー機として設置し、基本的には1台ですべての処理を行うことができます。
複数人数で作業する場合は、操作する端末が不足するため、子機パソコンを増設し、サーバー機にLANでアクセスすることで同時操作を可能にしています。
レセコンメーカー選びで事前に知っておきたいこと
NSIPS共通仕様に準拠するメーカーから選定する
レセコンメーカーと周辺機器を接続するインタフェースに調剤システム処方IF共有仕様(NSIPS)という規格があります。
NSIPSは、レセプトコンピューターや調剤鑑査システム、錠剤・散薬自動分包機等の調剤システムを連動させるための共有仕様で、現在は日本薬剤師会が仕様の策定を取りまとめています。
調剤薬局では、電子お薬手帳、調剤機器、電子薬歴、在庫管理と様々の機器をシステム連動させるため、NSIPSという共通の通信インタフェースで情報の共有をしています。
電子お薬手帳やマイナンバーカードを使ったオンライン資格確認システムは、レセコンと連携させることで労力も削減できるので、レセコンはNSIPSに準拠したメーカーから選定する必要があります。
メディコードウェブ(Medicode-web)で入庫情報をデータ化
在庫管理システムを導入している、または、レセコンに在庫管理の機能がある場合は、入庫情報をメディコードウェブによりデータで受け取ることができます。
受け取った入庫データは、直接レセコンの在庫管理システムに入るので、入庫データを手入力する必要がありません。またメディコードウェブは、卸業界が業務効率化をするために設立した企業なので、メディコードウェブに参画している卸との取引があれば利用は無料です。
レセコンに在庫管理機能がある場合は、メディコードウェブとの連携ができるか、利用上の制約がないか、追加費用は要らないか、などの確認をしておきましょう。
なおメディコードウェブは、レセコンメーカーから申請してもらう必要がありますので、導入を検討している場合は、レセコンメーカーに相談するようにしましょう。
高いメーカーと安いメーカーの違い
レセコンは小規模店舗用から大規模店舗用までシステム拡張できるように作られていますが、メーカーによって、接続できる機器の最大数が変わります。
大規模店舗でも利用できるレセコンシステムだと、他店舗と連携したり、多くの操作端末がつなげられるよう作られているため、価格は高くなる傾向があります。
またレセコンに用いられるデータベースソフトの種類も価格に大きく関係します。多くのメーカーは、Oracleというデータベースソフトを使っていますが、Windows Server上でしか動作しないソフトなのでイニシャルコストが10万円程度必要で高コストとなります。
このため、後発メーカーはWindows10 proで動作するデータベースソフトを使ったり、廉価なデータベースソフトを採用したりして、コストダウンを図っています。
個人的にはフリーソフトデータベースのMySQLあたりでも十分動くとは思いますが、Oracleで作ってしまうと動作検証などがやり直しになるため、そう簡単に変えられるものではありません。
プチフリーズと「しばお待」は要注意
慣れればどれでも一緒と思えるレセコンですが、操作すると数秒固まる、集計操作やデータ書き出しをすると10分応答がない、といったプチフリーズには要注意です。
プチフリーズは、データベースソフトの使い方や、サーバーとの通信制御が最適化されていない等の要因で発生し、メーカーのソフトウェアの設計品質に左右されるので、少し使うくらいではわかりません。
特に集計機能が遅くて、「しばお待」(「しばらくお待ちください」の表示)が数分間出るようだと、日々の仕事の時間ロスにつながりますので、しっかりとチェックしておきたいものです。
対策としては、メーカーにデモを行ってもらって実際に操作したり、データが増えた場合の処理時間などは、聞いて回答をもらうようにするのが良いと思います。
レセコンメーカー変更によるデータ移行について
レセコンメーカーを変えると、既存レセコン内部に入っているデータの移行を考慮しないといけません。
統一フォーマットで構築されているデータは、厚生局に送信するレセプトデータがありますが、このレセプトデータから抽出するだけでも運用には耐えられるくらいの情報は入っています。
しかし患者データ(個人情報あり)や電子薬歴データは、他メーカーへの移行を考慮されたデータではないので注意が必要です。
他メーカーのレセコンにデータを移行するには、既存レセコンメーカーに更新後のメーカーが読み込める形式にデータ変換出力を依頼する必要があります。このデータ変換作業は1回の出力で数万円~10数万円と高額ですので、必要なデータのみ変換してもらうほうが良いです。
小規模の調剤薬局であれば、患者データのみのデータ出力で十分と思います。レセコン自体にCSV形式で出力する機能が備わっていれば、通常、データ変換の依頼は不要です。
また電子薬歴データは、exPDという統一フォーマットで別会社のレセコンに有償でデータ移行ができます。電子薬歴は紙保管、および、既存レセコンを保管期限まで稼働できる状態にすることで対処も可能なので、データ変換を行うかどうかは費用対効果を考慮して対応するのがよさそうです。
月額利用料・サポート料の有無
レセコンは制度が変わるごとにソフトウェアをアップデートしていく必要があるため、月額利用料や月額サポート料などの契約が必須です。月額費用は2~3万円/月といったところです。
レセコンの更新時は、初期導入費だけではなく、月額費用も考慮しておく必要があります。月額費のような固定費は、運営コスト減にとても効果があるので、しっかりと検討しておきたいものです。
5年後の更新も考慮する
レセコンに使われるOS(オペレーティングシステム)には保守期限があり、レセコンも5年で保守サポートが打ち切られます。大多数のレセコンメーカーは、5年後に保守ができなくなるOSを使って販売し、新たにシステム更新を受注できるように仕組んでいます。
保守サポートの延長も可能ですが、延長が出来ても2年くらいですし、費用も割り増しとなります。Windows Serverなどビジネス専用OSでは、延長ができても保守費が高額になる傾向があります。
小規模店舗向けに作られている場合は、Windows10 proなどの安価なOSを採用しているメーカーもありますので、見積り時には良くて見おきましょう。
ORCAは調剤薬局の業務に使えない
医局のシステムにLinuxを使ったORCAという医事会計システムがあります。ORCAは、日本医師会が提供する医療現場のための医事会計ソフトウェアです。
ORCAは、オープンソースのLinux(ubuntu)で組まれており、ソフトウェア費用がほとんどかからないため、1万施設を超える医療現場で使われています。また、Linuxのシステム管理ができれば自分でシステムを組めるので、ORCAシステム導入と保守をする業者も存在するほどです。
しかし、ORCAは医事会計の機能のみなので、調剤薬局の業務には使用できません。調剤薬局システムと連携はどうするかというと、NSIPSで接続するしかないようです。
レセコンメーカーのシェアについて
国内のレセコン市場は上位数社でシェアの3/4と寡占状態となっています。
- EMシステムズ(Recepty NEXT)
- PHC(パナソニックヘルスケア)株式会社(メディコム ファーネス)
- 三菱電機インフォメーションシステムズ(調剤Melphin)
- 富士フイルムヘルスケアシステムズ株式会社(Pharma-SEED AS)
- ユニケソフトウェアリサーチ株式会社(P-CUBE)
比較検討しておきたいレセコンメーカー
レセコンメーカーの中には、特定顧客向けで一般販売していない、問い合わせ先が分からない、HPが古すぎる、という対応の会社もたくさん存在します。
メーカー探しで時間が取れない方は、以下7社で見積りをとれば、予算とニーズに応じたメーカーが見つかると思いますので、簡単に紹介しておきます。
EMシステムズ(Recepty NEXT)
1980年創業の医療事務ソフトウェア会社で、東証プライム上場企業です。レセコンといえばEMというくらいメジャーです。大病院向けでも動くようにシステムが作られているので、個人店舗で導入する場合はコスト高になるようです。小規模店舗の場合は、引き合いしなくても良いと思います。

PHC(パナソニックヘルスケア)株式会社(メディコム ファーネス)
1980年に三洋電機が開発したレセコンがベースです。現在は、パナソニックの傘下でPHCという会社名になっています。PHCのレセコンは動作も機敏だと評判です。業界のシェアが高く、導入価格もそれほど高くないので、個人店舗でもよく使われています。

富士フイルムヘルスケアシステムズ株式会社(Pharma-SEED AS)
2020年までは日立メディカルコンピュータでしたが、事業譲渡により富士フィルム傘下となりました。1画面で完結する画面インタフェースが使いやすいというのがセールスポイントです。個人店舗とは直接取引しないため、契約は取引のある薬剤卸会社経由となります。

ユニケソフトウェアリサーチ株式会社(P-CUBE)
2000年頃からカシオ計算機と提携して、シェアを増やしてきたソフトウェア会社です。当局もレセコン更新前はこのP-CUBEを使っていました。現在はカシオが撤退し、単独で事業を行っているようです。個人店舗とは直接取引しないため、契約は取引のある薬剤卸会社経由となります。
ズー
長野県にあるソフトウェア会社です。個人薬局経営をサポートするシステムを開発しています。調剤薬局システムだけでも複数のバリエーションをもっているので、いろいろなニーズに応えることができます。
引き合いでメーリングリストに入るといろいろと役に立つ情報を教えてくれるので、好感が持てるソフトウェア会社です。
インフォテクノ
北海道札幌市にあるソフトウェア会社です。幅広い製品で調剤ソリューションをシステムとしてまとめています。調剤システムを機能別に細分化し、いろいろなニーズに対して必要最低限の費用でシステムアップできます。所在が北海道なので、来訪対応は交通費等が高額になるので要注意です。
モイネットシステム
兵庫県神戸市にある2001年創業の比較的新しいメーカーです。経営陣はEMシステムズをスピンアウトされた方でレセコン専業です。レセコン機能はオールインワンで、標準で在庫管理システムまで入っています。
少人数運営でシステムコストに圧倒的な強みがあり、顧客が増えつづけています。機器の自己手配を許容するメーカーなので、パソコン保守がある程度できる方ならばさらに導入コストが下がります。
更に最初の5年間は月額費がゼロなんです。(5年後は年9万円の保守サポート費が必要)
見積りを取って比較してみましょう
ある程度知識が備わったならば、見積りをとってみましょう。
筆者の場合は、すべてメールで直接問合せしました。返答には約1週間くらいの時間を要しましたが特段対応が遅いメーカはなかったです。見積回答の手段は、メール、電話、卸会社経由と会社の特徴が出てなかなか興味深かったです。
見積り比較と、月々の保守費用等の比較は、こちらの記事を参照してみてくださいね。